時間的言明の意味論を用いて四次元主義を拡張する
−段階説の存在論的含意について−

西條玲奈(北海道大学)

 形而上学的理論は世界がどのようであるか、どのような事物が存在するかを語り、意味論的理論はそうした事物に基づいて日常言語をどのように解釈するかを語るものである。現代の形而上学者はときに形而上学的にラディカルな主張をし、われわれの常識が抱く事物についての理解を意味論上の問題として救い出す。たとえばある形而上学的理論が宇宙を原子論的なものだと述べるとしよう。この宇宙に存在するのはただ原子の集まりのみである。そこには窓も扉も存在しない。それにもかかわらず原子の配列が窓のように(window-wise)なっていることから、「その部屋には窓が二つある」といった日常的な言明の真理性を確保できるのだ。その一方で、意味論的理論が機能するためには世界のありようについて一定の主張にコミットしているともいえる。ならば意味論がコミットする存在論的主張を明らかにすること、もとの存在論をさらに拡張しうるのではないか。
 その事例として本発表では形而上学的な理論として四次元主義を検討する。分析的形而上学において四次元主義は事物の持続を説明する有力な存在論的立場である。その代表的な論者であるテッド・サイダーが古典外延メレオロジーを用いて定式化した四次元主義の内実はきわめてつつましい。彼にしたがうなら、四次元主義の宇宙とはただ次の二つの主張を満たすだけでよい。
  (1) 時間的部分のテーゼ。事物が時間的部分をもつことを是認する。xが時点tにおけるyの時間的部分であるのは、xがyの部分であり、xはtにおいてのみ存在し、かつxはtに存在するyの全てと重なり合っているときかつそのときにかぎる。
  (2) 無制限構成のテーゼ。任意の時空領域は一つの対象を構成する。この時空領域は連続的である必要はない。たとえば紀元前399年のソクラテスの鼻と2008年のバルカン半島は一つの対象を構成する。
 この二つの主張を認める四次元主義の存在論は実に豊富であり、ゲリマンダー風の奇妙な対象の中に自然な対象がまばらに存在している。
 四次元主義に伴う意味論の候補として登場したのが同じくサイダーの提案した段階説である。彼は段階説を時制付きの文を解釈するための理論として取り扱い、さまざまな一致のパラドクスを解決するためにこれを利用する。サイダーの段階説に特徴的なのは、それがデイヴィッド・ルイスの対応者理論を様相概念ではなく、過去時制や未来時制など時間概念を分析するのに用いるという点である。段階説のコミットする存在論的要請の検討を導きの糸とすることで、(1)+(2)からなるミニマルな四次元主義をより多くの主張を含む四次元主義へと拡張することが本発表の狙いである。